あの子を解き放て!
闘病と乱闘 / 2023.02.08
約7年前、死ぬ一歩手前みたいな状態で病院に収容された結果、有無は言わせねーぜ!的な勢いでもって遠慮の欠片もないスピード感で風を感じながら様々な検査と治療を開始した(主治医が)。CCUの個室では、訪ねてきてくれたルームメイトから「千手観音のよう…」と言われる程の点滴を背後に携え日々を綱渡りのごとく過ごしていたから、事の深刻さをあまり感じずフワフワした感覚に包まれて不自由に思いながらも治療方針に何も疑問を持たなかった。
はっきり言ってしまうと、頭なんて殆ど回ってなかった。凄くね、とにかく凄くよ。フワフワしてた。もう、日がな一日ボーッとしてた。集中力なんてものを果たしてこれまで持ってたことがあるか?って振り返るくらい集中力が皆無だった。イヤホンをつけて音楽を聞き続けるエネルギーもなかった。なんてかわいそう。思い返せば返すほどかわいそう。
そのかわいそうなおバカちゃん状態の私は、本当に解ってなかった。全く何も解ってない、なんて甘ちゃんなんだろうと何度思ったことか。
ワーファリンを飲むってことがどういうことなのか、一体どういうことなのか。この先の日常にどれほどの暗い影を落としていくことになるのかなんて。呑気に「家に帰りたい」とか言ってる場合ではなかった。
ワーファリンは抗凝固剤とかいうもので血液を固まりにくくする、サラサラにする、血栓予防で用いられる非常に優れた、それでいてクソ忌々しい薬である。
これは主治医の治療方針が左右する部分だと思う。同じような状況下の人でも処方される場合とされない場合がある。私は処方されちゃった方なのだ、残念ながら。されちゃったなー。されちゃうんだなー。どうしてされちゃうかなー。
何故処方されたのか。それは全てヒックマンカテーテルを導入した所為。今や肺高血圧症の主だった薬には何種類かあり、状況に応じた処方がなされていることと思う。もちろん、診断を受けた時の肺圧状況によって大きく変わるのだろう。そこまで肺圧が高くなければ(診断を受けた以上、高いことは高いんだけど)内服薬から始めることが多いようだけど、私はと言えば収容された時点で死神ドライブ真っ只中!絶賛肺圧爆上がり中!みたいなパーティ感が溢れていた為、使用する薬がエポプロステノール一択だった。
で、そのエポプロステノールをどうしていくのか、これが飲み薬とかなら楽だったんだけど世界はそんなに優しくはなく「持続静注療法」なんてそれっぽい感溢れた名前の治療法で、長期留置型カテーテルを使って心臓の辺りめがけてエポプロステノールを24時間絶えず少量ぶっ込み続ける。その長期留置型カテーテルが先程突然登場したヒックマンカテーテルにあたる。そのヒックマンカテーテルが、じゃぁどういう風に身体に入ってんだい?と思ったら「ヒックマンカテーテル」で検索をかけてみてほしい。出てくるから、びっくりする中々の絵面が。気をつけて。
人間は(ホモサピだけ?他の生物は?)体内に異物が入っていると血栓がそこに集まりやすくなるという不思議な習性を持っているらしく、わらわらと血栓が集まってきちゃって、更にそれが心臓の方に飛んでいっちゃうとちょっと大変な事になるそう。つまり、それを予防する為に処方されたのがワーファリン。
何故ワーファリンを処方するのか、何を予防しているのか、何度聞いただろう。私が「納豆食べたいんだけど…」と言う度に「出たよ、また始まったよ、何回説明すればいいのかねぇ!」ってきっと思ってるだろうけど一切顔に出さない主治医から淡々と聞かされた説明を。
それでも私は治療を始めてから半年も経たない内からずっと思っていた。納豆が食べたい、と。治療開始2年目くらいには主治医に聞き始めていた気がする。
「ワーファリンじゃない薬はないのか?」「変わりはないのか?」「納豆食べたい。」
時には真摯な説明を受け、またある時には「ちょっと無理っすねー」とあしらわれ、7年もの月日を過ごしてきた。
そもそも何故ワーファリンを処方されていると納豆を食べることが出来ないのか。納豆だって血栓予防になるってテレビで散々言ってるし、血をサラサラにするっつったら納豆とか玉ねぎでしょ?と、そう思うわけだが、やはりそんな単純に事は運んでいかない。
ワーファリンを服用すると血液がサラサラになる。サラサラにする為の薬だからサラサラになるまでサラサラにする。サラサラ具合を測る数値もあり、それは血液検査で判る。ちょっと数値が低いな…と判断されるとワーファリンの処方は増え、更なるサラサラを目指す。そのサラサラを邪魔する栄養素がこの世には存在している。ビタミンKだ。結局のところ、この世の全ての者に弱点はあるのか(突然どうした)。だから、処方され内服が始まるとビタミンKが豊富なものの摂取が禁忌となる。一般的に言われているのがクロレラと納豆だ。ビタミンKが豊富!と言われる野菜にはキャベツとかゴーヤーなんかもあるが、私の場合その辺は過剰に食べなければ問題なさそうだった。
しかし、クロレラと納豆。クロレラは飲まないから別にいいとして、問題の納豆。この蒸して発酵させた大豆の集団が納豆菌をまとった瞬間から暴徒化する。納豆菌は人間の腸内に突入したら、大量に長期に渡ってビタミンKを量産し続けるそうな。
悪魔か。
この悪魔の所業は、一度食べたら1週間くらいビタミンKを産み続ける恐ろしいものでバカな小細工で太刀打ち出来るレベルではない。試しに食べてみる…?どうなるか確認してみる…?と何度も考えたが、結局行動に移すことは出来なかった。出来たのはせいぜい人が食べる納豆を代わりに混ぜる係になり、混ぜながら必死に匂いを嗅ぐくらいだった。本気で大真面目に何度もやってた、何度も?毎回やってた。ただの変態みたいな姿だと思う。
事態が大きく動いたのが昨年の11月。たまに主治医の方から「どうした?」と思う話題の振り方がある。この時は新しい治療薬やQOLについてだった。他の患者から何か強く聞かれたのか、同じ病気の人が何か訴えてきたのか知らないけれど、何も聞いてないのに色々と珍しく話し始めるのだ。私は主治医の方針に不満はないし信用もしているが、一点だけQOL的に「納豆食べられないのが辛い」と、この時も隙あらばの精神で納豆問題をぶっ込んでみた。
そしたらどうしたことか。あんなに無謀な戦いだと思っていたのに、驚くほど軟化したではないか。「そんなに食べたいの?まぁ、マストではないからねぇ、一回止めてみる?ワーファリン。」
この言葉が主治医の口から放たれた瞬間流れたね、祝福の音楽が。そこら中に轟いていたね。
結局、その日の内に何かが決定することはなく、他の人の意見も聞くとかなんとか適当な所に話を落ち着かせて、「年明けまで(結論は)待って。」と言われ年を越した。
食べれるかもしれない、過去一番「食べれる」に近い状態で過ごす日々は、これまでの日々よりも辛かった。今までは「食べれるなんてことはこの先来ないのだ」と絶望に近い感情を抱えていたから、なんというか感覚的には「無」。気候的には「凪」だったのが濁流のように流れ込み暴れ続ける「納豆食べたい!」欲。癇癪の一つでも起こしそうだった。
それでも落ち着いて日々を過ごし、年明けの外来を迎えた。そう、私は大人だから。
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