帰省、またの名をごはん

旅行記 / 2022.10.22

2019年初夏、新緑の輝く季節。朝晩は涼しく日中は暖か、風がそよいで若草揺れる。そんな麗らかな世界で、私は確かに実家へと帰省していた。もう3年も前の話である。

2020年、「今年も帰るぞー!」と若干張り切っていた、呑気なあの頃。私は思い知るのだ、やんわりと拒絶され続ける悲しみを。

「移動中に感染したら大変」なんて優しい言葉を押しやった先に見える剥き出しの感情、田舎というしがらみを何度も味わった。きっと沢山の人がそうであるように幾度となく続く、「そりゃ会いたいけどー」を。2021年もそれは全く変わることなく、不動の王「そりゃ会いたいけど」。けどの後にある濁された言葉の数々が都市部で生活している私に降り注ぐ。星のように輝くならば暫く鑑賞してようか、くらいに思うのに。何にも光っちゃくれない。

2022年春、連絡する度に「GWに帰ります」「GWはそっちで過ごします」「GW、**日から参ります」と呪文のように唱え、既にやんわりとした拒絶がトラウマになりつつあった為、明確な回答を求めるような「行ってもいいよね?」などと聞くことも出来ず、それでもなんとか拒絶されることなく日々は過ぎ、無事当日を迎え、いよいよ行動制限のない大型連休がやってきた。

3年振りの帰省、新幹線と高速バスの長距離移動、放たれる感情、見よこの清々しさ。

(私が何故こんなにも実家への帰省を熱望したのかなんてことは一先ず此処では割愛しよう、今そんなものはどうでもいいのだ。)

実家に帰って待ち受けている事といえば何だろうかと考える間もなく出てくる答えが、上げ膳据え膳で出てくる食事だろう。多くの人がそんな経験をしてきているように、また私も「いや、私は大人であって学生、更に言えば高校球児なんかではありませんし特に国体を目指しているわけでもありません」と思わずにはいられない量の食事と対面してきた。おまけに健康体だとしても中々大変な食事に対して、塩分制限を課せられた身。相手は塩分制限など一切考えない料理人。毎夜繰り広げられるDeath・ゲームに私は常に負け続けた。

今年は、今年こそは。今年は絶対にやってやるぞ、負けてなるものか。そう、ただただ力強く思いながら3年振りの実家へ足を踏み入れた。気合いだけは入っていたのだ。

ある日の夕食

さぁ、ゴングは鳴った。3年振りの試合が始まった。

奥に見えるナルトがやたらと主張してくる山については後で言及するとして、まず登場したのが刺身。昔からそうで、父親が料理を振る舞う日は必ず前菜の刺身から始まる。中学くらいで一度刺身嫌いになった程に夕食に刺身が登場する。もちろん、刺身から遠ざかっている現在の私は大喜びで食べる。しかもカツオのタタキだ、最高じゃないか。手前にある白身魚はカサゴ。日々、釣りにはまった父親が釣り上げてくる魚の代表で滞在中毎日食べていたもの。

母親は数年間このカサゴを出され続けた為、結構うんざりしているらしく一切手をつけないそうだ。ならば私が。低脂質で良質なタンパク質をいただくとしよう。

再びカサゴのご登場だ。今度は大胆に唐揚げへと変身していた。

この日は随分と釣れたそうで、釣りから帰ってきたら誇らしげに収獲したカサゴを見せつけてきて嬉しそうにしていた。よかったね。

これがメインだと思わせておいて

こっちがこの日のメインである、うどんすき。

ちょっとね、量がどうかしてる。メインまでが遠い。何故魚の唐揚げ丸々一尾を一人ずつに配るのか。必ず何かが多い。ホスピタリティは健在だった。しかし、私はちゃんと気付いている。

それでも3年前より全体的に量が減ってるんじゃないかって一瞬でも思ったけど、…それが幻想だってこと。多分何も変わってない。

その翌日の夕食

翌日は、兄も帰省していた。

私が基本的にGWや盆暮れ正月に帰省することがない為、家族勢揃いとなるのが6年振り。こうやってただ6年振りと書くと随分久し振りなんだねぇと思うだけなんだけど、その6年前家族が揃っていたのが私の病気遅すぎる発覚で今日明日にも命が尽きようとしているらしい大学病院・CCU(それも個室)の中だったこともあり、実に感慨深かった。果たして私以外の家族がこの団欒の時点でそんなことを思っていたかどうかは知らないが。

そんなこんなで、勢揃いである。つまり、大量。食べ物が大量。

兎にも角にも刺身から始まる。鯛だ。写真はないが、もちろんカサゴもいた。

兄がいる、ただそれだけで何と心強いのか。責任の分散がなされる、お前が食えとさり気なくプレッシャーを与えることができる。

夕食が始まる1時間ほど前から、やたらといい匂いがしていた。和食の、なんとも言えない空腹を刺激するような匂い。なんだこの匂い、とずっと考えていた。答えに遭遇すると何故これが解らなかったのかと驚くほど解りやすいものだった。私を刺激し続けていたのは天つゆだった。

エビ天は私が事前にリクエストしていた「海老料理」の一つだ。まさかメインに持ってこないとは思わなかった。

さて此処からがメインである。ようやく辿り着いた。いいお肉が主役のしゃぶしゃぶがメインだった。メインの前にさり気なく茶碗蒸しまで出されていたが、それでも私はなんとかメインまで到達したのだ。日々実に険しい道を乗り越えてメインに到達しているが家族が揃うと、また一層険しくなる。もはやけもの道のよう。

しゃぶしゃぶをだいぶ食べ進めた頃、父親は朗らかに言うのだ。締めは雑炊にする?それとも、うどんにする?

私は何故、この家の人間として生まれたのだろうか。そう思わずにはいられない。兄はこともなげに言ったのだ、「うどんかな」と。

兄が去ったあとの、ある日の夕食

見よ、言葉も出ない。

私の中にある感覚ではメインが3つある、3つだ。本気なのか?何度も言いたくはないが、私は食べ盛り育ち盛りで勢いのある生命体ではないんだ。一体どうしようと言うのか。最終的に私を太らせて食べる気なのか?最後、食卓に上るのはお前だ、みたいなホラーか?

3年振りの帰省で、久しく出来なかった「誰かが作った料理を食べる」が実現して濁流のようなホスピタリティを全身で受け止める状態を2週間ほど続けたが、出てきた感想は「塩分で殺す気か?」なんかじゃなく、ただただ美味しいの一言だった。料理人め、おそるべし。

徳島

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